Stand by U ~from scene17 to episode2~
Stand by U ~scene17~

あれから
僕は一睡もすることができなかった
ヒョンはそのまま倒れこむようにソファーに寝てしまい
僕もとなりでうずくまる格好になったけど
結局朝まで眠ることができなかった
ヒョンの寝顔を見ながらいろんなことが頭をぐるぐるまわり
空がだんだん明るくなっていき
朝がきてしまった
どう受け止めていいかわからなかった
でも、僕にとっては自然なことだったんだ
全く躊躇がなかったか、といえば嘘になるけど
でも僕がそうしたいと思ったからそうなったんだ
なんとなく顔を合わせずらい
今日ほど朝から仕事が入ってることに感謝した日はない
ヒョンは確か午後からだったはずだ
マネージャーがおこすはずだから
僕はそっと家を出よう
でもコーヒーくらいは飲んでもいいよな
いつもの日課のコーヒーを入れていると
突然声をかけられた
「・・・チャンミナ・・・おはよう・・・」
心臓が飛び出るかと思った
ヒョンはソファーから立ち上がると、こめかみを押さえながらリビングに来た
かなり具合が悪そうだ(二日酔いだろうけど)
ダイニングテーブルの上でも両肘をついて頭を押さえている
僕はそんな様子になんて声をかけていいかわからなくて
無言でヒョンの前にコーヒーを置く
向かい合って座っていはいるけれど
僕はネットで今日のニュースを調べる振りをして
なるべくヒョンの顔を見ないようにして平静を装った
気まずい無言の空気が2人の間に流れていく
「・・・・チャンミナ・・・・・」
頭を押さえたままでヒョンがつぶやく
「・・・・なに?」
何も話したくない
でも無視するわけにも行かず、なるべく興味なさそうにぶっきらぼうにつぶやく
「・・・・・・ゴメン」
予想もしていなかった言葉に、心臓が飛び出すのかと思うくらいドキドキしていた
「なんのこと?」
普通に、興味なさそうに、ぶっきらぼうに、ばれないように
「昨日のこと・・・」
「昨日?」
「うん・・俺・・・なんかお前のこと、怒らしたよね・・」
「・・・なんで?」
「だって・・・チャンミナ・・・朝から俺のことみようともしないし」
「・・・・・・」
「なんか機嫌悪そうだし・・・・」
「・・・・・・・」
「全然・・・覚えてないんだ・・自分が何やったか」
「やっぱり飲み過ぎだな・・・」
「とりあえず、本当にゴメン。よくわかんないけど絶対俺が悪いと思う」
僕はドキドキがピークだった
何かいわなくちゃ
「別に・・何もしてないよ。とにかく飲みすぎは仕事にも影響が出るし、ほどほどにしなよ」
じゃ、僕は仕事行くから
ヒョンの顔も見ずに立ち上がった
何時頃帰るの?というヒョンの声が背中越しに聞こえたけど
僕は聞こえないフリをしてそのまま家を出た
僕は一睡もできなかったのに
僕の中でざわざわしているこの気持ちはなんなんだろう
怒り?
戸惑い?
混乱?
悲しみ・・・・?
少なからずショックを受けているのは確かだ
僕がショックなのは・・・・なに?
ヒョンが
なんでもひとりで抱え込んでいることに
怒りや寂しさを感じているのも事実だ
でも、それとはちがう
別の感情もあった
「ゴメン」
「何も覚えていない」
ヒョンがヒョンの本意ではなかったということ
その場の勢いで
酔った勢いで
何も考えず
記憶からなくなってしまうくらいのことだったってこと
何を期待しているんだ?
僕はどうしようもなく混乱していた
ただでさえややこしい状況にいるのに
さらにややこしい問題に巻き込まれていくようで
僕はもう途方に暮れていた
Stand by U ~scene18~

僕とヒョンの周りは、相変わらず落ち着かなかった
僕にしても、もともと身長の割に華奢な体つきではあったが
見た目ですぐわかるほど痩せてしまっていたし
出不精も相変わらずだった
あれからヒョンは・・・
家ではあまりお酒を飲まなくなった
少なくとも、僕の前では深酒をしない
その代わり・・・
外で飲むようになったようだ
誰と飲んでいるのかどこで飲んでいるのかもよくわからない
ただ、あまりいい飲み方、酔い方はしていないような気がする
そして帰りが明け方だった朝の変な時間だったり
時として夜中だったり
仕事にしては・・・マネージャーがついていないこともあるし
僕としては心配の種が増えるばかりだった
ヒョンに聞いたところで答えはわかっている
「大丈夫だよ。心配すんな」
だから僕は聞かない。
あれから
僕とヒョンの関係はなにも変わらなかった
相変わらずヒョンは僕の部屋でゲームをやるし
僕の部屋やベッドやソファーで
そのまま一緒に眠りこけてしまう日も多いし
でも、あの夜のような
そんな感じにはならなかった
僕は僕でやっぱり混乱していて
うまく自分の気持ちを処理できないでいた
ただのリーダ-とマンネだったんだ
ステージの上では本当にかっこよくて
その行動で示す統率力は誰にも真似できなくて
仲間を心から愛し、大切にしてくれ
僕は嘘のない誠実なヒョンを、心の底から尊敬し、信頼していた
置いていかれないようについて行くのがやっとだった
その反面、抜けているところも世話のやけるところも多く
僕はそのギャップを間近で見ていて
男ながらもその不思議な魅力に惹かれてもいた
今この状況になって
その愛を一身に受けるようになって(仲間としてでも)
僕はヒョンの人間としての大きさを改めて感じていた
そして人から愛される、大事にされる、大切にされる喜びを感じていた
その愛に答える責任も感じていたし
愛を与えてくれた人に対する愛情もまた、感じていた
でも僕にはよくわからなかった
その愛がどんなものなのか・・・
そんな僕の混乱とは別に
お互い空いた時間にはレッスンをしたし
相変わらずヒョンは厳しかった
でも、僕にはわかる
いくらレッスンをしても
いくらうまく踊れても
いくらうまく歌えても
それだけではダメなんだ
絶対的に足りないもの
僕にもヒョンにも痛いほどそれがわかっていて
でもお互い決して口には出さなくて
意地とプライドだけが僕たちを奮いたたせていた
もう1度、ステージに立ちたい
それがどんなカタチになるのか
どんなカタチであれなのか
わからないけど
もう1度、あの光の中に・・・・
僕はよく空を見上げながら
日本の小さなステージで歌ったあの日のことを
思い出すようになっていた
Stand by U ~episode1~

帰りたい
毎日空を見上げては
そればかり考えていた
帰りたい
家族に会いたい
友達に会いたい
思いっきり韓国語がしゃべりたい
辞書から逃げ出したい
どうして・・・どうして僕はここにいるんだろう
韓国での共同生活よりもっとストレスのたまる日本での共同生活
行きたいところに行けない
しゃべりたいのに言葉がなかなか出てこない
でも僕はそんなもどかしい自分が嫌で
一生懸命日本語を勉強してした
心休まる時がなかった
緊張がとれる時がなかった
ヒョンたちの間で僕が1番上手くならなくてはいけない
それが僕のポジションなんだ
完璧を目指してしまうこの性格
こんな時、本当に自分の性格が恨めしい
韓国であれだけもてはやされている自分たちが
日本に来ればまた新人の日々
頭の片隅に
ほんの少しだけよくない考えが浮かぶことがあって
一生懸命それを打ち消す
「なぜ母国だけでけではダメなんだ」
絶対に口に出してはいけないってわかってる
だから僕はその考えを払拭するためにも
がむしゃらに
ただ懸命に、与えられた仕事をこなしていく
そんな考えをする間を自分に与えないためにも
1度出してしまうと、もうそれはとめどなくなりそうだから
僕が塞ぎ込むと1番初めに気づくのはユノヒョン
「元気だせ」とか
「がんばれ」とか
そういうことは一切言わない
その代わり態度で示す
ユノヒョンを見ていると、立ち止まっちゃいけないって気になる
(プレッシャーにもなるんだけど)
「マイケルジャクソン」がユノヒョンの口癖
だからヒョンは外国での活動が苦ではないんだろう
世界中を魅了した彼が目標ならば
苦しいこともきっと乗り越えていけるんだろう
ヒョンにはその苦しみの先が見えているんだ
僕はといえばどうだろう
僕にはユノヒョンのように「先」が見えない
日々をこなすのがやっとで
その先なんて何も見えない
もちろんステージが楽しくないかといえば嘘になる
きらびやかな衣装を身につけて
まばゆい光のスポットライトを浴び
僕らの姿が見えるだけで黄色い歓声が湧き上がり
人々は狂ったように歓喜する
煽る僕らに、ヒートアップする客席
でも、ステージからひとたび降りると
僕は急に頭が真っ白になるときがある
今、あの舞台にいたのは誰だ?
チェガン・チャンミン?
シム・チャンミン?
僕は誰なんだろう?
僕はなんのために歌っているんだろう?
僕はどうしてここにいるんだろう?
僕の本当に目指している場所はここなのだろうか?
ここが、僕のいるべき場所なのだろうか?
同じ年の友達は、将来を見据え
愚痴をいいながらも確実な「何か」に向け
一歩一歩を踏みだしている
「お前はいいよな」
友人に言われるたびに、僕はとてつもない違和感を感じていた
でも、言い返したところでわかってもらえるはずもなく
だから僕は黙って笑っている
何が?
アイドルが?
芸能人という特殊な職業が?
ステージが?
スポットライトが?
歓声が?
周りからみれば、僕は羨望の的なのだろうか
血の滲むようなつらいレッスン
プライベートな時間もなく
友達や家族と過ごす時間もなくなり
毎日自分が磨り減っていくような感覚に襲われる
分刻みで埋まっていくスケジュール
分刻みでこなしていく仕事
これが僕の夢見た現実?
これが、僕の目指しているもの?
僕は自分の心と向き合うこともできず
葛藤と戦うこともできず
ただただ時間の波に押し流されるように
異国での日々を生きていた
Stand by U ~episode2~

突然飛び込んでしまったこの世界で
僕は数年経ってからの方がより混乱していた
だったら最初によく考えろよ
言われたんだろ?ヒョンに?
「中途半端な気持ちならすぐやめとけ」って
自嘲気味に自分に問う
無我夢中だったんだよ
気がついたらここまで来ていたんだよ
自分の足で歩いてきたつもりだったけど
なぜか他人が歩いているような
他人の歩いた道に立っているような
そんな感覚に襲われるんだよ
袖が長すぎたり
ダボダボだったり
自分に合わない服をきた時のような
どうしようもない違和感を感じるんだよ
そんな感覚、お前にわかるか?
つらいのか?
-そりゃつらいさ
歌ってて楽しいか?
-うまく歌えりゃ、楽しいさ
踊ってて楽しいか?
-うまく踊れりゃ、楽しいさ
じゃあ、幸せか?
-
お前は今、シアワセか?
-
「シアワセカ?」
-わかんないよ
それがわかんないから
ここで立ち止まってんだよ
そんな時
韓国では何万人の前で歌う僕らが
まばゆい光の束を浴び、歓声の渦に巻き込まれる僕らが
小さな小さな外国のステージで
たどたどしい外国の言葉で
愛の歌を歌った
これでいいのかな
僕なりにもちろん一生懸命だったけど
身体も精神も消耗しきっている僕は
少しだけ申し訳ない気持ちでいた
このステージにどんな意味があるんだろう
舞台セットも十分とは言えず
メンバーも戸惑いながらこなしている小さなステージで
僕は足場の悪い中、なんとか歌い、踊り・・・・
やっと顔を上げてまともに観客席を見ることができた
そのとき
一瞬
本当に一瞬
周囲の音が何も聞こえなくなった
-笑っていた
観客席でステージを見ている人たちの顔が
笑っていた・・・
完璧ではないステージ
けれど
こんな僕の歌で
うれしそうに
幸せそうに
本当に幸せそうに・・・・
この歳で、僕がどんな富や名声を手に入れたとしても出なかった答えが
自分なりに
真面目に一生懸命やってきた自分への
ひとつの答えが、出た気がした
そうか
僕はこのために歌っているのか
僕の頑張りで
僕の歌で
僕のパフォーマンスで
少しでも誰かが幸せな気持ちになってくれ
少しでも誰かの人生の影に温かい光を届けられるなら
こんなに幸せなことはないんだ
それが、僕のシアワセなんだ・・・・・
-ふと見上げると
真っ青な空に
美しい白い雲がたなびいている
この空は母国までつながっている
この空は世界中につながっている
どこにいたって一緒だよ
この空の下で歌う限り
僕はもしかしたらとてつもない素晴らしいことを達成できるのかもしれない
誰かのシアワセに
力をかせるのかもしれない
だから僕は歌うんだ
だから僕はここにいるんだ
だから僕の居場所は、ここなんだ
この日の空を、僕は決して忘れないだろう
この先
どんなことがあっても
今日の空は
きっと・・・いつまでも変わらずに
僕の中にあり続けるだろう
遠い異国の地で
少しだけ
僕は僕を誇らしい気持ちで
抱きしめてあげたい気分になっていた
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